「au」ブランドで携帯電話サービスを提供するKDDIが、いわゆる「決済」という枠組みで本格的にビジネスを立ち上げたのは、2014年2月に、が発表した「au WALLET構想」にさかのぼる。
従来までデジタルコンテンツの世界にフォーカスしていた「au ID」を「O2O(Online to Offline)」、つまりリアル店舗の世界へと拡張することを目標としており、オンライン決済のWebMoneyに加え、Mastercardとの提携で世界210以上の地域で3600万以上の加盟店を持つ同社の決済ネットワークを利用可能にするというものだった。
その第1弾として発表されたのが「au WALLETカード(プリペイド)」で、「グッバイ!おサイフ!」を掛け声に物理的なプラスチックカードを使った“キャッシュレス”での店舗決済が可能になった。au WALLETは申し込みに対してカード発行が追い付かないレベルで急成長を遂げた。後にはクレジットカードの発行も開始し、同社のビジネスの軸の1つとなりつつある。
2016年末には日本国内でサービスを開始したApple Payとの連携も開始し、本当の意味での「グッバイ!おサイフ!」の世界が近づきつつある。au WALLETの拡張として、2018年度中に「QRコード決済」「資産運用/ローン」のサービスを提供予定であることを、2018年4月5日の社長就任会見で発表した。
今回、au WALLETを軸としたKDDIの決済戦略について、KDDI に話を聞いた。
「バーチャル口座」を中心に「出口」を増やす
「おサイフケータイもやっていた会社が、なぜ(NFCなどの)スマートフォンを使ったサービスではなくて“板”の形でau WALLETを出したのか」というのは、サービスの開始当初に聞かれた意見だ。
「非接触方式よりも(磁気ストライプを使った)カード型の方が使える場所が多い」ということで「現実的な選択」と思っていた。「なぜ“板”で出したのかといえば、皆に持ってもらえる形を検討したからです」と答える。
「現在プリペイドとクレジットで、それぞれ1970万と340万の発行枚数があり、流通額は(発行枚数の少ない)クレジットの方が多い。『(au WALLETプリペイド)カードが約2000万枚ある』という言い方もできますが、『サーバに“バーチャル口座”がある』という言い方もできます。このバーチャルにたまっているお金をどういう出口で使っていくのかを考え、その形の1つが“板”というわけです。
口座という考えからいけば、金額を増やすための資産運用という話もありますし、“出口”という意味では“板”という形だけでなく『Apple Pay』などへの対応もあります。au WALLETプリペイドカードに、残高不足分がじぶん銀行との連携でリアルタイムチャージされるサービスを発表しましたが、これもチャージに手間取るという利用者の声を反映したものです。
銀行口座直結により、店頭でチャージ不足によるもたつきをなくし、デビットカードに近い使い勝手が実現できるようになります。お客さまが望まれる出口と入口を提供し、バーチャル口座をより便利に日常生活で使ってもらえる機会を増やしていくのがau WALLETの基本戦略です。
つまり、au WALLETは中心にバーチャル口座が存在し、この口座の残高に対して利殖を行う「資産運用」や一時的に残高を増やす「ローン」のようなサービスが考えられる。さらに、入口となる「じぶん銀行」、出口にあたる「プリペイドカード/クレジットカード」「Apple Pay」といった外部サービスとも連携している。
「QRコード決済」も出口という名の「インタフェースの1つ」でしかなく、「たまたま今はQRみたいなインタフェースが話題になっていますが、これもまた今後変化していくでしょう。そこはお客さまに選んでいただければいいと考えています」というスタンスだ。
また2014年のサービス開始当初は「Mastercardプリペイドカード」という「ブランドプリペイド」自体が日本国内ではなじみのある製品ではなく、多くの利用者に分かりやすく使ってもらえることを目標に、なるべくシンプルな形でサービスを提供することを目指したという。
できることもアプリ経由での入金などに限定し、まずは認知向上と利用促進を優先した。当初は手探りだったサービスも、ある程度規模が拡大することで次のステップが見えてくる。
KDDIは対外的な中期経営計画で2018年度の事業規模を2兆円程度と見積もって報告しており、当面はこの目標数値を目指していたが、流通額に関していえば2.4兆円が見えてきており、現在はこれに向かって少しずつ数値を積み上げている段階だ。先の新サービスの話題も、これをブーストさせるための効果が期待される。
au WALLETプリペイドカード2000万枚で見えてきたもの
約2000万口座に到達したことで見えてくるのは事業規模拡大だけでなく、そこでの利用傾向など、別のデータもある。現金至上主義といわれる日本だが、どの世代でどの程度利用が進んでいるのかというデータも当然把握しており、例えばプリペイドサービスでは40代女性の利用率が高いことが分かっている。
これにより、利用の厚い層に向けたキャンペーンを打ったり、利用の少ない層を取り込むための施策を練ったりする際の参考となる。Apple PayのユーザーはApple Payにこだわらず、通常のカードを介しての利用も多いという傾向が見えており、一概に同じ決済手段に依存しているというわけではないようだ。つまり、こうしたユーザーはキャッシュレス全般の比率が高いことも意味している。
WALLETポイントとの連携も重要だ。ポイントからWALLETへのチャージももちろんだが、“出口”が増えたことでポイントの使われ方も変化しつつある。au WALLET開始以前までは、その利用のほとんどが機種変時の端末代金に充当させるものだったという。それが4年をかけて大きく変わり、現在では半数程度が別の使われ方になっているようだ。
WALLETへのチャージに限らず、ポイント充当が可能な商材が増えているという背景もあり、ポイント経済圏が拡大して循環しつつある。ポイントはある意味で“囲い込み”の材料でもあり、その活用手段としてau WALLETは今後も拡張していくだろう。
現在はauユーザーのみを対象に提供されるWALLETサービスだが、いずれ“頭打ち”となるタイミングがやってくる。2018年3月時点でのauの加入数は5228万で、プリペイドで約2000万口座となった今、遠からず限界が見えてくる。
これはKDDI側でも認めており、質から量への転換で、今後はより既存ユーザーを活性化するための施策が重要になってくるという。資産運用サービスなどはその典型で、これまでは単に「チャージしてお小遣い的に使う」感覚だったものを、「増やす」という新しいサービスでバーチャル口座の活用手段を増やす。
一方でWALLETサービスを外部ユーザーに提供するという「アカウントのオープン化」には否定的で、まずはauユーザー向けの施策を強化していくことを優先するという。
リアルタイムチャージと一緒に発表された「個人間送金」と「出金」にも注目したい。これらはau WALLETとじぶん銀行口座を結び付けることで利用可能になるもので、特に個人間送金は電話番号と氏名(かな2文字)を指定するだけで相手のau WALLET口座に簡単に送金できる。
2018年4月から、au WALLETアプリを使い、じぶん銀行からのリアルタイムチャージ、個人間送金、じぶん銀行への出金が可能になった
じぶん銀行の登録情報を使って本人確認をすることで、本来この手の個人間送金サービス開始で要求される「個人認証プロセス」をスキップできる点でハードルが低いのが特徴だ。ただ、モバイル端末を使った送金文化がまだ日本で根付いていないからか、普及にはまだ時間がかかると説明する。
さらなる個人間送金普及にはLINEなどを含む外部サービスとの接続や、先日も+メッセージ(プラスメッセージ)が発表された際に「将来的にはRCSのインタフェースを使ってキャリアをまたいだ送金サービスなども検討している」と説明されていたように、相互連携が重要となる。これについては「KDDIだけで対応できる部分もあるが、そうでない部分もあり、すぐには難しい」と、やや否定的な見解を示している。
auのQRコード決済はどんなサービスになるのか
「ドコモに続いてKDDIもQRコード決済市場に参入」ということが話題になり、今回のインタビューでもこの点を含めて取材依頼をさせていただいたが、「まだ検討中で、KDDI社長の会見での説明以上のことは現段階では話せません」とのこと。
一般論としてKDDIの見解を聞いたところ、「QRコード決済はまだまだ黎明(れいめい)期であり、それぞれが独自仕様でやられている段階。お客さまと採用いただく加盟店の両者で混乱が起きると、普及がしづらい状況が生まれてしまいます。各プレーヤーが共通で足並みをそろえるタイミングがやってきて、どのように差分を吸収するのかという話が出てきます」とのこと。
実際にこのインタビュー後に経済産業省を中心にQRコード決済統一方式に向けたヒアリング開始が発表された。恐らく、KDDIの参入タイミングから考えて、この共通仕様をある程度視野に入れた形でのサービスインになると予想している。
QRコード決済を導入する加盟店(店舗)が必ずしもApple Payが利用可能な非接触決済端末を導入しているとは限らず、この点で両者がすみ分けられ、さらに決済機会を増やすという相乗効果を生み出すことにもKDDIは期待しているようだ。AndroidとiPhoneともに機種を選ばずに利用できるというQRコード方式のメリットももちろんある。
楽天ペイやLINE Payでは、自身が提供するQRコード決済方式について「2018年が勝負の年」とコメントしていた。一方、KDDIは「キャッシュレスの乱立が続くなか、やがては収束されていくことになるでしょうが、2018年に全てがきれいにまとまっているとは思いません」とのスタンス。
「KDDIも2018年度中に(QRコード決済の)開始をうたっていますが、2019年や2020年を見据えて、少しずつお客さまに理解してもらいながら拡大していくことになるでしょう。重要なのは『使える場所をどう増やすのか』『そこの(バーチャル)口座にお金が入っているのか』という2軸です。加盟店を増やす努力もさることながら、口座にお金がある意味がないと普及はしません。中国が分かりやすい例ですが、銀行口座にお金を置いておくより、(AlipayやWeChat Payなどの)サービスにお金があった方がいいと認識されたことが大きいです」
加盟店が単に増えるだけでは意味がないとの考えも示す。「LINEが2018年に100万店舗導入をうたっていて、実際にすごいと思うのですが、本当に使えるかどうかは別の話です。象徴的にコンビニで使えるとか、あるいは比較的大規模な店舗を押さえるというのはもちろん重要ですが、目指しているのは近所のそば屋で使えるとか、(まわりの経済圏で)どこでもキャッシュレスになっている方が当然いいわけです。そうなると、インフラ整備を1社で行うのは現実的な話ではないのかもしれません。競争とインフラ整備は別という考えもあるでしょう」
2014年に所ジョージさん主演の「グッバイ!おサイフ!」の象徴的なCMキャンペーンで幕を開けたau WALLET。「当時は手探りで、一部からは怒られたりもして、CMを見るたびにお腹が痛くなる」という経験もしたサービスだが、「お財布に現金を入れずにお買い物」というコンセプトは一定の成長を実現し、昨今のキャッシュレスブームと相まって再び脚光を浴びつつある。
QRコード決済では後発組に属するなど、フットワークの軽い他社に比べると慎重な動きが目立つKDDIだが、5000万超の課金ユーザーという膨大な顧客ベースを武器に、同社ならではのキャッシュレス施策で生活圏への浸透を図っている。まずは2018年度後半発表予定の、au WALLETを拡充する新サービスに期待したい。
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